なぜそうなるか
確定申告の納税地を、バーチャルオフィスの住所にできる?——所得税法は納税地を住所地と定め、事業場等があれば、その所在地に代えることもできるとしていました
個人で事業を始めて、自宅の住所を人に出したくないからと、バーチャルオフィスの住所を借りる人がいます。名刺や請求書はその住所にそろえた。では、確定申告の書類は、どこの税務署に出すのでしょうか。
税の手続きには「納税地」という言葉があり、申告書の宛先となる税務署は、この納税地で決まります。住所を借りたからといって、宛先がそちらに移るとは限りません。
前の記事では、郵便物の受け取りを頼む契約で本人確認がある理由を、犯罪収益移転防止法から読みました。今回は、税務署の側から見た住所の話になります。
手がかりは所得税法の第15条と第16条にありました。第15条が原則を決め、第16条がその例外を置いています。事務所を設けたときの届出は、第229条に書かれていました。
この記事では、所得税法の条文をe-Gov法令検索で、国税庁の手続案内の頁を2つ、2026年9月27日の時点で読みました。法人の本店所在地や、消費税の扱いの細かい部分には立ち入りません。
いちばん知りたいはずの「バーチャルオフィスは事業場等に当たるのか」について、読んだ条文と頁には書かれていませんでした。そこは税務署に確かめる所として残し、決まりの骨組みだけを並べます。
・所得税の納税地は、国内に住所がある人なら、原則はその住所地
・住所地とは別の場所に事業場等があれば、その所在地を納税地にすることもできる(第16条第2項)
・納税地を変えるときの届出は、提出の期限が決まっておらず、出した日以後に変わる
・事務所を設けたり移したりしたときは、開業等の届出が別にある
納税地は、何で決まるの?
事業の住所を借りたら、そこが申告の宛先になるの?
第15条は、納税地の決め方をこう書き出しています。
所得税の納税地は、納税義務者が次の各号に掲げる場合のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める場所とする。
続く第1号は、国内に住所がある場合を挙げ、その場合の納税地を「その住所地」としていました。住所がなく居所だけがある場合は第2号で、居所地になります。
国内に住んで事業をしている人なら、まず当たるのは第1号です。名刺に載せた住所ではなく、住んでいる所が出発点になる、という並びでした。
住所地のほかに、選べる場所はあるの?
事務所の所在地を宛先にしたいときは、どうするの?
第16条の見出しは「納税地の特例」です。第2項は、国内に住所か居所がある人が、それとは別の場所に事業場その他これに準ずるものを持っているとき、住所地や居所地に代えて、その所在地を納税地にできると定めていました。条文はこの「事業場その他これに準ずるもの」を「事業場等」と呼び、二つ以上あるときは主たるものの所在地としています。
国税庁の手続案内も、この条を根拠に挙げています。頁の「概要」の書き方です。
住所を有する方がその住所地に代えて居所地を納税地とする場合、住所又は居所を有する方がその住所地又は居所地に代えて事業所等の所在地を納税地とする場合、又は、居所地又は事業所等の所在地を納税地としていた方がその納税地に代えて住所地を納税地とする場合の手続です。
バーチャルオフィスは「事業場等」に当たる?
ここは読んだ資料に書かれていませんでした。条文は「事業場その他これに準ずるもの」と書くだけで、住所と郵便の受け取りだけを借りる契約がこれに入るかどうかを、条文も国税庁の2つの頁も述べていません。実際に事業を営む場所がどこにあるのかで話が変わりうる所です。届出を考えるときは、変更前の住所地を受け持つ税務署で確かめてください。
納税地を変える届出は、いつ、どこに出すの?
期限はあるの? 出したら、いつから変わるの?
手続案内の「提出時期」の欄です。
特に定められていません(ただし、この届出書の提出があった日以後に納税地が変更されます。)。
出す先は、新しい宛先ではなく、元の住所地のほうでした。
変更前の住所地を所轄する税務署長
手数料の欄は、一行だけでした。
手数料は不要です。
対象者の欄には、除かれる人についての一文が添えられていました。
ただし、納税地の指定を受けている方は除きます。
引っ越しで納税地そのものが動いた場合は、別の届出になります。備考の欄の書き方です。
転居等により納税地に異動があった場合には、「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出してください。
事務所を設けたときの届出は、別にあるの?
納税地を変えなければ、何も出さなくていいの?
第229条は、事業を始めたときや、事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設けたり移したり廃止したりしたとき、その年分の確定申告期限までに届出書を税務署長に出すよう定めていました。国税庁の「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」は、この手続をこう説明しています。
新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。
提出の時期は、次のとおりです。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。
出す先について、備考に次の一文がありました。
つまり、事務所の届出と納税地の選択は、別々の手続として案内されています。事務所を設けたことを届け出ても、それだけで納税地が移るとは、どちらの頁にも書かれていませんでした。新設、増設、移転、廃止に係る事務所・事業所の所在地が納税地と異なる場合であっても、納税地を所轄する税務署長以外の税務署長への提出は不要です。
よくある質問
自宅の住所を人に知られたくないだけなら、届出は要りますか
名刺や請求書に載せる住所と、税務署に届ける納税地は、読んだ条文の上では別の話でした。載せる住所を変えることについて、この記事で読んだ資料は何も定めていません。
納税地を事業場の所在地にしたあと、自宅に戻せますか
国税庁の「概要」は、事業所等の所在地を納税地としていた人が、住所地に戻す場合も同じ手続に含めて書いていました。
法人を作ってバーチャルオフィスを本店にする場合も同じですか
この記事は個人の所得税の納税地だけを読んでいます。法人の本店所在地や、法人税の納税地は扱っていません。
この整理が変わる条件
- 所得税法の第15条・第16条・第229条や、関係する政令・省令が改正された場合(本記事は2026年9月27日に読んだ条文による)
- 国税庁が、納税地の変更や開業等の届出の手続案内を改めた場合
・所得税の納税地は、国内に住所がある人なら原則その住所地(第15条第1号)
・住所地とは別の事業場等の所在地を、納税地にすることもできる(第16条第2項)
・変える届出は期限が決まっておらず、出した日以後に変わる。出す先は変更前の住所地の税務署
・事務所の新設や移転の届出(第229条)は、納税地の選択とは別の手続
・バーチャルオフィスが「事業場等」に当たるかは、読んだ資料に書かれていない
出典
- 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第15条・第16条・第229条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁「[手続名]所得税・消費税の納税地の変更に関する届出手続」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/05.htm
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
どこを申告の宛先にするかは、変更前の住所地を受け持つ税務署で確かめてから決めてください。
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