なぜそうなるか
バーチャルオフィスの契約で本人確認があるのはなぜ?——犯罪収益移転防止法は、郵便物の受け取り場所を貸す業務を「特定事業者」に挙げ、契約の際に氏名や住居の確認を求めていました
事業を始めるとき、自宅とは別の住所を名刺やホームページに載せたくなることがあります。その住所で郵便物を受け取ってもらうサービスを申し込むと、本人確認の書類を出すよう求められます。
部屋を借りるわけでもないのに、なぜ身元を確かめられるのでしょうか。
答えの手がかりは、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法)にあります。この法律は、郵便物の受け取り場所を貸す業務を、確認の義務を負う事業者の一つとして名前を挙げる法律です。
この記事では、e-Gov法令検索に載っている法律の条文と、警察庁が公開している「犯罪収益移転防止法の概要」(令和8年8月7日時点)を、2026年9月26日の時点で読みました。
どのバーチャルオフィスを選ぶべきか、料金がいくらかは扱いません。あなたの申込みが、ここで読んだ決まりに当たるかどうかも判断していません。
確認の方法は、条文が「主務省令で定める方法」と書いていて、この記事では省令の本文までは読んでいません。何を持っていけばよいかは、申し込む事業者の案内で確かめてください。
・郵便物の受け取り場所を貸す業務が、法律の上で何と呼ばれているか
・その業務の事業者が、契約の際に何を確かめることになっているか
・警察庁の資料が、この業務を対象に挙げている理由
・読んだ資料に書かれていなかったこと
郵便の受け取りを頼むサービスは、法律で何と呼ばれている?
バーチャルオフィスという言葉は、法律に出てくるの?
犯罪収益移転防止法の第2条第2項は、確認などの義務を負う「特定事業者」を号ごとに並べる規定です。その第44号が、郵便物の受け取りにかかわる業務です。
条文は、事業者が顧客に対して自分の事務所の所在地を郵便物の受け取り場所として使うことを許し、そのうえで次のことをする業務だと書いています。
当該自己の居所若しくは事務所において当該顧客宛ての郵便物を受け取ってこれを当該顧客に引き渡し
同じ第44号には、自分の電話番号を顧客の連絡先として使わせ、かかってきた電話の内容を伝えたり、電話を転送したりする業務も並んでいます。
警察庁の「概要」は、この業務を次の名前で呼んでいます。
郵便物受取サービス業者(いわゆる私設私書箱)
「部屋を借りる」だけのレンタルオフィスはどうなる?
第44号の書き方は、郵便物の受け取りと引き渡し、電話の取り次ぎや転送という役務の中身で決まる形です。部屋や机を借りるだけの契約がこの号に当たるかどうかは、読んだ条文と資料には書かれていませんでした。申し込むサービスに郵便物の受け取りが含まれているかを、契約の内容で確かめてください。
契約のとき、何を確かめられるの?
本人確認では、名前と住所だけを見られるの?
第4条第1項は、特定事業者が決められた取引をするときの確認を、こう定めます。
主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。
どの取引のときに確認をするかは、法律の末尾にある別表で、事業者ごとに決まります。第44号の事業者の欄には、次の取引が書かれています。
同号に規定する役務の提供を行うことを内容とする契約の締結その他の政令で定める取引
つまり、サービスを使う契約を結ぶときが、確認の場面になります。「その他の政令で定める取引」に何が入るかは、この記事では政令までたどっていません。
確認する事項を、第4条第1項の号の順に並べると次のとおりです。
| 号 | 確認する事項(条文の書き方を短くしたもの) |
|---|---|
| 一 | 本人特定事項(個人は氏名・住居・生年月日、法人は名称と本店または主たる事務所の所在地) |
| 二 | 取引を行う目的 |
| 三 | 個人なら職業、法人なら事業の内容 |
| 四 | 法人の場合、その事業経営を実質的に支配できる関係にある者があるときは、その者の本人特定事項 |
表の一の中身は、条文のこの部分です。
法人として申し込むときは、会社そのものと、会社を実質的に支配する人の両方が確認の対象に入りうる、という並びになっています。自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。
なぜ、この業務が対象になっているの?
郵便物を預かるだけなのに、どうして犯罪の話になるの?
「概要」は、特定事業者ごとに、マネー・ローンダリングに使われる危険性を順に説明する資料です。郵便物受取サービス業者の項では、本人特定事項を偽って契約すると、お金の行き先や持ち主が分かりにくくなる、という趣旨が書かれています。
そのうえで、実際にあった形として、次の例を挙げています。
架空名義で契約した郵便物受取サービス業者宛てに犯罪収益を送付させ、これを隠匿した事例
契約の際に名前や住居を確かめるのは、この「架空名義」を防ぐためだ、という筋になります。ここまでは資料の説明で、個々の事業者がどんな手順で確かめているかは、資料には書かれていません。
「概要」の終わりの表は、郵便物受取サービス業者を所管する行政庁を経済産業大臣とする書き方でした。
よくある質問
個人事業で使う場合も、確認はありますか
第4条第1項は、確認の相手を「顧客等」と書いていて、個人の場合と法人の場合の両方の事項を挙げています。個人で申し込むときは、表の一から三が当てはまる並びです。あなたの申込みがどの取引に当たるかは、事業者の案内で確かめてください。
何を持っていけば確認が済みますか
確認の方法は、条文では「主務省令で定める方法」とされています。この記事では省令の本文を読んでいないので、必要な書類までは書けません。申し込む事業者が示す書類の一覧を見てください。
電話の取り次ぎだけのサービスも同じですか
同じ第44号に、電話の受付や転送の業務も並んでいます。ただ、「概要」の表には、電話受付代行業者について、代行業者の商号などを明示する条項を含む契約の締結を除く、という注記がありました。電話だけのサービスの扱いは、この記事の範囲の外に置きます。
この整理が変わる条件
- 犯罪収益移転防止法や、その政令・省令が改正された場合(本記事は2026年9月26日に読んだ条文による)
- 警察庁が「犯罪収益移転防止法の概要」を新しい時点のものに差し替えた場合(本記事は令和8年8月7日時点の版を読んだ)
・郵便物の受け取り場所を貸す業務は、法律の「特定事業者」の一つ(第2条第2項第44号)
・サービスを使う契約を結ぶときが、確認の場面になる(別表)
・確認の事項は、本人特定事項・取引の目的・職業や事業の内容・実質的に支配する者の4つ(第4条第1項)
・警察庁は、架空名義で契約して犯罪収益を送らせた事例を挙げている
・部屋を借りるだけの契約が当たるかは、読んだ資料には書かれていない
出典
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)第2条第2項第44号・第4条第1項・別表(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000022
- 警察庁 JAFIC「犯罪収益移転防止法の概要」(令和8年8月7日時点・PDF) https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/hougaiyou20260807.pdf
自分の申込みに当たる決まりは、契約の書面と事業者の案内で確かめてください。
当方が上の出典を引いて確かめた日: